研究内容

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研究の背景

自然界は物質やエネルギーの流れがあり熱平衡からはなれた「非平衡系」にあります。学部で習う力学は力と変位は線形関係で結ばれており、熱力学や統計力学も熱平衡を扱います。これらは体系化された学問であり、調和する自然の摂理を美しい方程式で表し、背後にある法則をみせてくれます。しかし既に述べたように多くの自然現象は線形・平衡の外でおこり、多様な自然界を貫く普遍法則を知るには、非線形・非平衡へと拡張させなくてはなりません。非線形な力学系では揺らぎに対して頑強なリズム現象(リミットサイクル)や軌道不安定性・カオス、そして特徴的な時空間構造が生じます。渋滞する車の列・粘性流体をながれる水滴の集団・DNAに結合するタンパク質のフィラメント〜物質もスケールも異なっていても、ダイナミクスから普遍的な法則がみえてくるのです。

非平衡系の物理学

 代表的な非平衡系の1つは、温度勾配下での熱と物質の流れです。近年、実験系の進歩により微小な系(〜μm)の温度勾配下での分子の濃度流れを高精度に計測できるようになりました。私たちは最近、高分子溶液中の温度勾配下では、エントロピーの効果による濃度流れが生じ、DNAやRNAをサイズや構造に応じて分離するのみならず、リング形状の空間構造形成を示す非平衡クロス効果を発見しました。この現象について、ナノスケールでの分子表面の流体相互作用を取り入れた理論で説明することに成功しています(Maeda, Phys Rev Lett 2011; Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2012)。
 
 また、温度勾配は自然界に顕在する非平衡系であり、熱水噴出口には化合物とともに巨大な温度勾配があります。非平衡クロス効果はDNAやRNAの選別と濃縮をおこないえることを示唆します。非平衡ダイナミクスと遺伝情報分子の輸送から生命の起源に手がかりが見出せるかもしれません。現在では輸送と化学反応が協同するオープンリアクターを構築する研究を進めています。

 さらに、この分子輸送は捕捉する物体の電磁気学的性質に依存しないという他の分子操作法と一線を画す特性があります。この特性を利用することで、私たちは従来操作が難しかった生体高分子や生きた細胞の分布を制御する新しい光技術を開発しました(Maeda, App. Phys. Lett. 2013; Fukuyama, Langmuir 2015)。現在では生きた細胞内での分子の表面物性を計測する新たな手法の開発を進めています。

主要論文

  • Fukuyama T, Nakama S, and Maeda YT. Soft Matter (2018)
  • Fukuyama T, Fuke A, Mochizuki M, Kamei K, and Maeda YT. Langmuir (2015)
  • Maeda YT, Tlusty T, and Libchaber A. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2012)
  • Maeda YT, Buguin A, and Libchaber A, Physical Review Letters (2011)

 流れに駆動される非平衡環境下にある液滴集団や、鳥や微生物などの動く要素が集まると、渦の形成・波の伝播など非線形非平衡系に固有の現象が現れます。個々の要素は全体が統制されているかどうかはわからないはずなのに、局所的な相互作用と揺らぎから巨視的な構造が出現する様子は、相転移現象とのアナロジーがあります。これらの物質群のパターンや集団運動には、物質の詳細に依らない普遍則があると考えられます。

 前多研究室では、自己駆動する粒子の集団(アクティブマター; Active matters)が示す秩序形成とその転移現象の理解、集団内部にみられる位相特異点のダイナミクス、非平衡揺らぎの統計則の解析を行っています。最近、アクティブマターが自発的に形成する渦運動において、複数の渦が近接する際にとる配置が規則的に転移する現象を発見しました(Soft Matt. 2017)。VicsekモデルやActive hydrodynamicsの理論を中心に、アクティブマターの集団運動に潜む普遍的な法則と生命機能との関連を明らかにするのが目標です。

主要論文

  • Beppu K, Izri Z, Gohya J, Eto K, Ichikawa M, and Maeda YT. Soft Matter (2017)
  • Ohmura T, Ichikawa M, Kamei K, and Maeda YT. Applied Physics Letters (2015)
  • Maeda YT, Inose J, Matsuo MY, Iwaya S and Sano M, PLoS ONE (2008)

生命システムの物理学

 生命とは何か?この問いに現代科学は未だ満足な答えを見出せていません。重要な性質は「細胞は母なる細胞から生まれる」という自己複製です。分子生物学は生命を構成する遺伝子という部品に注目しますが、生命の本質は総体である「システム」と「そのダイナミクス」にあります。個々の部品は違ってもパターンや振動をつくりだすシステムには共通点があると考え、その動作原理を理解する合成生物学とよばれるアプローチが有効と考えられます。前多研究室では。遺伝情報を読み解く人工細胞を構築し、自己組織化するダイナミクスから複製のダイナミクスまで、生命の自己複製を実現するの仕組みの理解を目指した研究を行っています。

 これまでに、遺伝情報を読み出し、内部に組織化された構造を自律的につくる人工細胞の作成に成功しました。現在は、時空間パターンを生み出し、分裂する人工細胞を創ろうと奮闘しています。さらに、人工細胞が複数あるときに生じる細胞運命の決定機構を再構成し、人工多細胞システムの挙動を弾性力学や非線形動力学から解明します。文脈は違うと思いますが、ファインマンは「What I cannot create, I do not understand(自分が作れないものは理解できない)」と言ったそうです。私たちは「作って理解したい」という好奇心を原動力に、個々の部品の詳細にとらわれず、生命現象をシステムレベルで解明します。

主要論文

  • Sakamoto R, Noireaux V, and Maeda YT. Scientific Reports (2018)
  • Maeda YT, Nakadai T, Shin J, Uryu K, Noireaux V, and Libchaber A. ACS Synthetic Biology (2012)
  • Shimamoto Y, Maeda YT, Ishiwata S, Libchaber AJ, and Kapoor TM. Cell (2011)
  • Noireaux V, Maeda YT, and Libchaber A. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2011)
  • Maeda YT and Sano M. Journal of Molecular Biology (2006)

共同研究

HFSPプロジェクト(海外研究機関)

京都大学

東京大学

  • 田端和仁 先生 工学系研究科応用化学専攻

遺伝学研究所